Vol.18 まさかの退場メインビジュアル

2012.11.06

10月2日、話題のツタンカーメン展を観に行ったときのことです。
私たち親子は、住まいが上野に近いということもあり、よく美術館に出掛けます。
地方に出掛けたときも美術館があれば必ず立ち寄るくらい、鑑賞好きと言えるかもしれません。
このツタンカーメン展は別の展覧会に出掛けた際、長蛇の列が出来ているのを横目で見ていたので、平日の休みに長女と次女、私と三人で出かけました。
案の定、入り口に着いた時はまだそれほど混んでいず、初めて音声ガイドも借りて館内に入りました。
しかし、程なく他の展覧会に比べて休憩用の椅子が少なく空間も狭いので、余計に混雑した印象を持ちました。

一番大きな棺の展示品を前にしたときのこと。
とても混み合っていて押されたり、「障害者だ」という心ない声が聞こえたりして、次女の情緒が乱れ泣き出してしまいました。
丁度オープンカフェがあったので、取り敢えず落ち着かそうと立ち寄り、お茶を注文すると、一人の男性が長女に近づき何やら小声で話しました。
それは、他の鑑賞者の迷惑になるので即刻退場してほしいということでした。
長女がいろいろと交渉しましたが、埒が明かず、お茶を飲み終わるまでは待つということになったようです。

お茶を飲み干し、トイレにも行って気分が落ち着いた次女を待たせ、今度は私が交渉しました。
「大きな声で他の鑑賞者にはご迷惑をおかけしたけれど、今はこうして落ち着いたので、後半を見せてほしい」と。
ところが、「本来なら泣いて止まらない時点ですぐに退場してもらうが、お茶の時間は待ったので、今すぐ退場してほしい。泣きやまないお子さん連れの方にもそうして頂いている。特別に長女と私が交代で後半を鑑賞するのは構わない」という。
こちらが「納得できない」と返しても「どうしてですか」と柔道の金メダリストに似た精悍な顔立ちのY氏は一歩も引かない。
「また泣き出さないという保証はないでしょう」とまで言う。
「あなたはどういう方なのですか」と尋ねると、「責任者です」と答える。
「そうですか、あなたより上の方はいないのね?」にうなずく彼。
しばらく堂々巡りが続いていたので、やむなく私はそこで引き下がることにしました。

娘たちは、ニューヨークのメトロポリタン美術館やMoMA美術館にも行って来ましたが、こんな体験は初めてです。
よしんば作品に手を触れそうになったとしても注意でとどまり、退場なんて!フジテレビという商業ベースが主催の展覧会だから、こんな対応なのかしらと合点がいきません。

帰りの車の後部座席で長女が泣き出しました。
私が、「泣かなくていいよ…泣いている場合じゃない」と言うと長女は、「お母さんと私は違う!私はお母さんみたいに強くない!お母さんは自分が産んだ子供だから、M(次女)のことが可愛いでしょっ。でも私は姉妹だからってどうしてこんな目にあわなくちゃならないの?」と泣きじゃくりました。
長女はニューヨークの二人旅を終えたばかりで、余計にナーバスになっており、「きっと今だけだけど、今はMが嫌い」と言いました。
長女は我が身と次女の身の上が悲しくて、しばらく泣き止みませんでした。

私は、今回の処遇が悔しくて悔しくて涙なんか出てきません。
このままでは終わりたくない。終わらせない思いでいっぱいでした。
今回の料金システムは障害者が通常料金で、介助者1名が無料ということで、料金を払って入場した次女に当然鑑賞の権利があるのです。
長女と交代して残りをまわった退場口で、私は高価な展覧会のパンフレットを購入しました。
これからこれを次女と一緒に繰り返し眺めておいて、再チャレンジしようと思ったのです。
次女の情緒の乱れを酔っ払いと同一視された悔しさは、当事者でないとなかなか実感できないかもしれません。
Y氏はマニュアル通りに行動したのでしょうか。
私は、いまだにお茶を飲んで落ち着いた次女に、後半を鑑賞する機会を与えてもらえなかったことに、納得できずにいます。
後日、事務局の方に電話で謝っていただく機会はありましたが、次女に直接謝っていただいたわけでもなく、まだ終わっていません。